中室牧子『「学力」の経済学』

もしかして結構話題になってます?

「学力」の経済学

「学力」の経済学

 

 学力や学校教育に関する思い込みを科学的根拠(エビデンス)で撃ち抜いていく爽快な一冊。教育というテーマもあるのでしょう、扱うトピックの多くが人口に膾炙した言説(というよりは神話)ばかりで、読み進めるにつれ信じていた常識が崩れていくのがたまりませんでした。

ここで使われているデータのほとんどは海外のもので、日本にそのままあてはめられるものではありません*1。そして教育が数字だけで測れるものとも思えません。それでも、わずかな非をあげつらって排斥してしまうにはもったいないアプローチです。都合の悪いことから目を逸らさず、教育を考える材料にしたいと思いました。

 

  • メモ1

ここに書かれている内容は、読んでいて心地の良いものばかりではありませんでした。「少人数学級は費用対効果が低い」(p.103‐106)や、「教員研修は教員の質に影響しなかった」(p.153)など、クタクタになるまで働かされてる同僚の先生たちを見ていると少しショックです。

 

  • メモ2

因果関係と相関関係の解説(p.20‐22)の例に挙げられているだけなのですが、

読書をしているから子どもの学力が高い(因果関係)のではなく、学力の高い子どもが読書をしているにすぎない(相関関係)可能性があるのです。(p.22)

学校司書としてはちょっと笑えないです(苦笑)余談なのですが、うちの学校では全学年で実施しているある学力テストで高得点を取ると表彰されるシステムがあります。表彰式で壇上に上がっている面々を見ていると、うちの図書館の常連ばかりでちょっと驚きました。でもよく考えたらこの子ら、図書館でそんなに本も読んでないし、勉強もしていないぞ……(笑)図書館に来ているから学力優秀なのではなく、学力優秀な子が図書館に来ているにすぎないのかもしれない……*2

 

  • メモ3

行動経済学を専門とする大阪大学の池田教授の研究も、とても興味深いものです。この研究では、子どものころに夏休みの宿題を休みの終わりのほうにやった人ほど、喫煙、ギャンブル、飲酒の習慣があり、借金もあって、太っている確率が高いことを明らかにしています。要するに、宿題を先延ばしにするような自制心のない子どもは、大人になってからもいろいろなことを先延ばしにし、「明日からやろう」といっては結局禁煙できず、貯蓄もできず、ダイエットもできないというわけです。(p.96‐97)

いやーーーーーっ!!(泣)

 

 

以上の3つのメモを見てもわかる通り、取り扱っているテーマはたくさんあります*3。メモ2のように耳が痛いものもたくさんです(3も痛いケド)。それでも、それらの課題を看過せず、新たな方法や使命を模索していくことが大事なんじゃないかなぁと思った次第です。

図書館を一から建てるほどではないにせよ、図書館を運営していくというのはお金のかかることです。そう見ると(学力だけに寄与するわけではありませんが)、学校図書館の費用対効果はかなり低いのでは?と思えてきます*4学校図書館で子どもの「読む」を叶えることが最高の効果を生むのはどんなシチュエーションか?どのような生徒にとってどんな学校図書館が特に有効か?学校図書館が学校教育に与える影響はどんなものがあるか?ひとつひとつはくだらない知識の断片でも、それらをプールしていくことで学校図書館はよりよくなっていくのでは、そう思いました。

*1:このことは著者も再三指摘していますし、日本で研究が蓄積されないことも問題視しています。

*2:うちは小規模校なのでおそらくただの偶然です(笑)

*3:触れませんでしたが、子育てと学力に関わることもたくさん言及されています。

*4:だから予算を、と声を上げる手もあります。しかしお金をなるべくかけない方法を考えることもまた一手です。安易な学校図書館の予算削減は私も反対です。